「先生(マダム)はjuriちゃんにだけは甘えるんやなぁ。」
周りにそう言われるのが、私は好きだったりする。
「リズムが合うのよ。」
マダムが私と居るのを、周りにそう説明するのも、好き。
私に悪態をつくのも好き。
私に心配されたり、私が彼女の為に奔走したりすると、嫌がるのも、好き。
「昨夜は寝たんでしょうね?」
「だから寝る時間なんかある訳ないじゃないの!!」
私は思いっきり呆れてため息をついてみせる。
会場中が彼女のお客様のようなものだから、挨拶だけで疲れ果てるだろうと思い、
「先生、もう、しゃべっちゃ、だめ!今日は何をすべきですか?本番に声が出なくてもいいの?」
「はい。」
彼女をロビーからこっそりカフェに撤収。
もうすぐ、ご主人の一周忌。今日の演目は、それに因んで、ご主人の為に、お謡いになります。
「Tもっちゃん(ご主人)への一周忌メッセージ、早く頂戴ね。本に載せるのだから。」
ヒソヒソとカフェで話している最中も、人々がマダムにご挨拶にいらっしゃる。
「ここは美味しいのですのよ、この前などはね、juriさんにご馳走してもらったのよ、嬉しかったわ。ね、そうよね、貴女、あの頃は丁度、無職だったのよね、それなのに私におごろうとするのだから、生意気なのよ。」
そんなに嬉しかったのですか。私も、大人んなったなって、嬉しかったけれど、周りに自慢されるのも嬉しいのですけれど、今日だけは、黙っておきなさいよ。
「楽屋にいたら?先生。」
「そうね、そろそろ着替えなくっちゃ。きっと、いいお席で観てね、でも、今日はダメだわ、自信がないわ。このごろ寝ていないのですもの。・・・云々・・・云々・・・。」
しゃべり続けながら遠ざかって行くので、声もフェイド・アウト。
だからー、しゃべんなさんなって。
幕は開いて。
一時間の演目中、しっかりきっちり、ご主人への『隅田川』、美しい佇まいで、演じられました。
あちらの世界はきっと、絢爛豪華な光の世界。