art-P capsule

フリーMC。2004年から映画とロックを作っています。ジャンルレスボーカルや表現を生業としている日々を記しています。2004年12月より毎日更新。

素謡 隅田川

rubenjuri2008-05-10

 「先生(マダム)はjuriちゃんにだけは甘えるんやなぁ。」
 周りにそう言われるのが、私は好きだったりする。
 「リズムが合うのよ。」
 マダムが私と居るのを、周りにそう説明するのも、好き。
 私に悪態をつくのも好き。
 私に心配されたり、私が彼女の為に奔走したりすると、嫌がるのも、好き。
 「昨夜は寝たんでしょうね?」
 「だから寝る時間なんかある訳ないじゃないの!!」
 私は思いっきり呆れてため息をついてみせる。
 会場中が彼女のお客様のようなものだから、挨拶だけで疲れ果てるだろうと思い、
 「先生、もう、しゃべっちゃ、だめ!今日は何をすべきですか?本番に声が出なくてもいいの?」
 「はい。」
 彼女をロビーからこっそりカフェに撤収。
 もうすぐ、ご主人の一周忌。今日の演目は、それに因んで、ご主人の為に、お謡いになります。
 「Tもっちゃん(ご主人)への一周忌メッセージ、早く頂戴ね。本に載せるのだから。」
 ヒソヒソとカフェで話している最中も、人々がマダムにご挨拶にいらっしゃる。
 「ここは美味しいのですのよ、この前などはね、juriさんにご馳走してもらったのよ、嬉しかったわ。ね、そうよね、貴女、あの頃は丁度、無職だったのよね、それなのに私におごろうとするのだから、生意気なのよ。」
 そんなに嬉しかったのですか。私も、大人んなったなって、嬉しかったけれど、周りに自慢されるのも嬉しいのですけれど、今日だけは、黙っておきなさいよ。
 「楽屋にいたら?先生。」
 「そうね、そろそろ着替えなくっちゃ。きっと、いいお席で観てね、でも、今日はダメだわ、自信がないわ。このごろ寝ていないのですもの。・・・云々・・・云々・・・。」
 しゃべり続けながら遠ざかって行くので、声もフェイド・アウト。
 だからー、しゃべんなさんなって。


 幕は開いて。
 一時間の演目中、しっかりきっちり、ご主人への『隅田川』、美しい佇まいで、演じられました。
 あちらの世界はきっと、絢爛豪華な光の世界。