出会った頃は
「年老いて貴方は私を忘れるだろう」と責めた。
最後の女になりたいものだとエンターテインメントから学んだ幼少期であったが、分に合わない。
「こいつ好きだ」と思って寵愛していた元カノよりも、ちょいとつまみ食いした人をはっきりと憶えているかもしれない。むしろその可能性の方が高いような気さえしている。もしくはどちらかというと疎ましく思っていた人かもしれない。
どっちにしても私のことは忘れる。
毎朝毎晩「君は誰」という表情で見つめられるだろう。
だが。
シミュレーションしているだろうから無意識に。
無意識的に。
ママの海馬はとても綺麗だという。
顔も綺麗だ。
傷もすぐに治るのだそうだ。
ママは忘れない。
すっとこどっこいだが、私たち娘のことや孫たちのことは忘れない。
昔のことは逆に忘れている。
刹那な人だな。
逆なんだな。
いいな。
今を生きているなんて。
パパを愛しただなんて。
分に合わない。
ヤダヤダ。
ママのように海馬を綺麗に保っておいてもらいたいものだ。
朝には「おはようみゃんちゃん」と。