「連れてって。」
あ、そうだった。時間がない、急がないと。すぐに調べるから。
「青野ダムにも小野の沼にも琵琶湖にも、どこにも、もう、1羽たりとも下り立ちはしないのよ。雁たちは今は全て宍道湖にしか行かないのよ。」
そうだった。ずっと昔から、夜中に出発して、明け方に雁たちが朝日を背に宍道湖を飛び立つところを絶対に観ようって、K先生に頼まれていたのだった。
いろいろ噛み合ないこのごろだけれど、これは決して飛んでかない約束なのだな。
「今回、特選をとった句がね、青野ダムに雁が下り立ってとかっていう一句なのじゃないの、私は市長に言ってやったのよ。50年以上も雁なんて来ていないのよ、一番知っておかなければならない環境のことなのに。雁が来るってことはね、どういうことだかわかる?素晴らしい自然環境だからなのよ。」
そう言いながら、今宵、数年ぶりに、先生の涙を見ました。
「連れてく。」
「連れてって。」
うん。
ぜったい。