人食いNoteに食らわれて夜の海を漂ったからだ。
社食。昼食を摂りながら、ない頭を捻っている。
周りで凄い人数の同僚たちが私に詰め寄りつつも、各々の持ち場確認に右往左往している。
Xデーが近い。
博覧会場のような、見通しのよいホール。
トータルコーディネイトの提案イベント。
私のイベント。
幕は切って落とされた。
スーツの茶髪青年が、会場の隅に立つ私に近づく。
「何処?」
私は対角線上の遥か彼方の隅にあるステージを指差した。
彼は無言でゆっくりとステージを目指す。
私は常に数人のスーツ姿の上司や同僚たちに囲まれて話を摺り合わせているので、彼を目で追い続ける事もままならないが、それでも会場を常に見渡しているというフリで見届ける。
ステージ上には、三体のトルソーが私のコーディネイトを纏って佇む。
各コーディネイトの手には、口紅が握らされている。
彼はそれを取り、色とタイトルを確認する。
真ん中のそれを手に取り、タイトルのカードを確認して彼は遥かこちらの私を見た。
目が合った。
『何も知らない』
そう。
私は、貴方の事を、何も知らない。